賢い犬たち

子供のころから家には犬がいた

外に大きな木製の犬小屋が置かれていた

真夏の暑さに耐えきれずか 小屋の下に穴を掘り もっぱらそこに

寝ていた

そのタロウが祖父と山で暮らすことになった

 

ある日の朝早く 犬が泣いている

布団の中で あれはタロウの声だ! いないはずのタロウだ!

と飛び起き 声のする方に行くと

案の定 タロウが裏の犬小屋のあたりをうろうろしていた

祖父に何かあったのだろうか

山にいるはずのタロウが

 

頭を撫でていると首輪に荷札がついていた

その荷札には 祖父の筆で

「今日持ってきてほしいもの ○○ ◇◇ ▽▽」と

犬を放せば必ずいえに戻ると踏んでの祖父の知恵

 

その頃はリンゴもかなりの収穫量で 町の品評会でも最優秀賞を

とるまでになっており 発送業務も大変になっていた

繁忙期には近所のおばさんの手も借り、母親も駆り出され毎日

山に行っていた

手伝いの人か母親が山に来るときに持ってきてほしいものをタロウに託したのだ

しばらくぶりのタロウに会え嬉しく学校に行く前なのに遊んでいた

すると母親が

タロウを山に返したいから線路を越えたところまで連れて行ってと

えっ私にできるの 一緒に戻ってくるのでは と不安に思いながらも

線路を越え小川のあたりまで行く この辺りでいいかな

タロウに向かって

「しっ!しっ!」と追い払うように声を掛ける

何回も何回も

こちらを振り返りながらも タロウはあきらめてか察してか

山の方へ歩み出した

母も祖父もタロウが戻るとわかっていたのか

こうしてその後は しばらく お使い犬として活躍してくれた

 

第一号の荷札の冒頭には ”○○の刺身” と書いてあった

冷蔵庫もない時代 缶詰をたくさん用意していたが

飲んべえの祖父もたまには大好きな刺身が食べたくなっての

思い付きだったのかも

賢いのは犬ではなく祖父だったか